【イギリス長期コーチ留学】プレミア屈指、トッテナム育成年代の練習視察

「プレミアリーグのチーム練習って見れますか?」

と、時折聞かれるのですが、プレミアリーグの練習場は、基本的に非公開なのです。

各クラブのトレーニング施設は、トップチームや育成年代を含めて、選手たちが練習に集中できる安全な環境を作ることを主な理由として、関係者以外の立ち入りを厳しく制限しています。

ビッグクラブが所持している施設は、天然芝と人工芝ピッチを合わせて約10面、最先端のトレーニングジム、ドーム型練習施設などが完備されており、一般的な代表チームの国立トレーニングセンターよりも充実したものになっています。

9月某日、トッテナムの最新練習場に潜入してきました

普段は立ち入りが制限されているのですがが、北ロンドンに拠点を置くトッテナムホットスパーズは、地元街クラブの育成年代のコーチングスタッフや運営者を対象にしたレクチャーを定期的に開催しており、今回はイギリス11ヶ月留学でアキコーチと講習に参加してきました。

9月中旬、U−7からU−11の年代のコーチを50人ほどを招待され、講習とトレーニング見学を含めて2時間の講義が行われた。参加費は無料でした。北ロンドンの地元クラブが多かったように思います。

7歳からスカウティングをはじめています

トッテナムはロンドン市内にスカウティング網を張り巡らせており、7歳以上を対象に練習場への送迎が1時間以内の距離に住んでいるタレントを探しあて育てることに重きを置いているようです。

U−7からU−11のアカデミーを統括するギャリー・ブロードハースト氏がトッテナムの育成年代が掲げる哲学を道路標識のラウンドアバウト(環状交差点)の写真を用いて説明をはじめました。

「ラウンドアバウトには何カ所の出口がある。全員をプロ選手として主要道路に送りだすことはできないが、我々の目標は明確で将来CLで活躍できる選手たちを主要道路まで送りだすことである。現在のトップチームにはハリーケーンを含めてアカデミー出身の選手が3人在籍しており、彼らは8歳からトッテナムの育成メソッドの中で育ちCLの舞台に立っている」

金の卵をどう育てるのか?育成における環境の重要性

11ヶ月FA レベル2を受講中のアキコーチ

つづいてスカウティングで見出してきた才能の卵に対してどのようなトレーニングを構築し、なぜそれをするのか、どのように実践するのか、そして環境の重要性を強く主張していました。

「育成における環境は非常に重要である。ここでいう環境とは、選手、家族とクラブとの信頼関係。安全でクリーンな場所での練習。そしてなによりも選手たちが、失敗や批判を恐れさせずに、リスクをとってクリエイティブなプレーをさせる環境のことである。7歳から11歳は、まだ子供である。利己的なプレーをすべて否定するのではなく、子供のままに多くのリスクを負わせたプレーをさせようとコーチングしている。時間をかけて、トッテナムの哲学言語と環境を選手に理解してもらうと努めている。


ハリーケーンは、8歳からトッテナムに所属している

さらに大事なことは、この年代の選手たちを現在のトップチームと同じ視線で分析してはならないと常にスタッフや関係者に話している。例えば、U−8のチームがそのままトップチームに昇格することはない、チームではなく個人の選手がそこまで辿りつくと考えている」

サッカーに飽きる?様々なスポーツを体験

練習プログラムの中では、ユニークな取り組みもいくつか紹介されていました。

アカデミーの上級生が年下の選手たちに対して選手として成長するとはどういうことか、なぜこのトレーニングを行うかを対話させるピアメンタリングは、コーチの話を聴くよりも、より能動的に会話に参加し記憶により残るようである。

その他に、選手たちはサッカーだけではなくマルチスポーツに取り組んでいるようです。小学生年代の選手たちは週3回のトレーニングに加えて、週末にプレミアクラブ同士との公式戦を行っており、シーズン中にサッカーから距離を置きたい瞬間がやってくるは仕方ないことだと理解し、週に50分ほど、ラグビー、ハンドボール、陸上などを行う時間を設けて、ポイント制の競争を行っている。

サッカー以外からも身体の動かし方やスポーツ戦術など多くのことを学べると確信しているようでした。

どんな選手を育てたいのか?明確に!

どのような自前の選手を育てるのかという項目は非常に細かく提示されていた。その中で、プロ選手となった時にCLで活躍するためには選手のゲームへの適応性をブロードバスト氏は次のように強調した。

「トッテナムは、約10年間に7カ国の異なる監督を雇用してきてきた。これはプレミアリーグの中で特別な数字ではなく、監督が長年在籍するクラブの方が非常に珍しいのが現状である。育成段階ですべきことは、選手が異なる国の監督の元で、変化するプレースタイルに適応することができる能力を身につけることだろう。監督が変わると突然に活躍できなくなる選手は少なくない。フィジカル、頭脳、そして選手の人間性が備わり適応できる。どんなスタイルになっても、適応しうる選手がCLで生き残れる選手だと考えている」

ドーム型の施設で行われているU−7からU−10のトレーニングをピッチ上に入り見学すると、インテンシティが非常に高いミニゲームが行われており、5対5のミニゲームの中で選手たちの動きに対して励まし褒めるコーチングを続け、選手たちはリスクを恐れずに激しく動き回り、大きく躍動していました。

最後に街クラブのコーチ陣と小学生のアカデミー選手たちとのディスカッションが行われ、どんな練習を行っているのか?なぜこれをやっているのか?という質問に対して、先ほどまで行われていた講義の内容を子供の口からはっきりとした受け答えがなされていた。大人な対応を見せていました。

参加者の一人のコーチが、講義の感想を述べた一言が印象的でした。

 「哲学や練習メソッドなど理想を語ることは街クラブでもできるし簡単なことであろう。しかし、先ほどパワーポイントでプレゼンしていたことが、目の前で100%実践され、そのトレーニングが積み重なっていくことに驚きを覚えた」

街クラブのコーチはそれぞれに学びとるものがある有意義な2時間であったことは間違いない。自身のクラブですでにやれていることを確認し、やれていないことはどのように変えていけばいいのかを他クラブと対話する場所にもなっていました。

プロクラブの才能の卵たちは、地元街クラブのグラスルーツからやってくる。その関係性をどのように構築していき、アカデミーから育て上げるかの試みの結果は、10年後のCLの舞台でわかります。

さて、僕たちはサムライというクラブでどのような選手を育てたいのでしょうか?学ぶことはまだまだたくさんあります。


最後に一枚!
後:アキコーチ、前:竹山編集長。

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著者プロフィール

竹山友陽
竹山友陽
2009年より在英。イギリスサッカー留学マガジンFOOTBALL@UK編集長。イギリスの大学でスポーツマネージメント学部卒業。ロンドンスポニチ通信員。サッカーダイジェスト執筆など。西ロンドンにてサムライアカデミー運営。