現代サッカーでは「サッカーと分析」は、すでに切っても切れない関係にある。試合中のプレー成功率、選手のダッシュ本数、スピードなどのデータがコンピューターに一瞬のうちに落とし込まれる。
データを分析し、両チームは長所と短所の見極め、次のゲームに向けたトレーニングメニュー作成などがおこなわれる。ヨーロッパのトップの現場では、数年前からすでに常識になり、練習中やユース年代の試合でも分析は取り入れられている。
しかしながら、そのコンピュータソフトで導きだされた数字をどのように読み取り、グラウンドで活かすことができるかはソフト購入にいくら大金を積んでも仕方がなく、その数字を読み取るアナリスト(分析官)の存在が重要になっていている。
今回は、イギリス•リヴァプールのサッカーデータ会社最大手のひとつProzoneの分析コースを受講した須山ヒロト氏に昨年受講した際の様子を振り返ってもらう。須山氏はイギリスにおける2年間のワーキングホリデーで、UEFA B ライセンスを取得して、現在はドイツにてプロコーチを目指している。
イギリス•リヴァプールでサッカーのゲーム分析コースを受講した須山(ワーホリ中)さんにインタビュー
Prozoneでの講習風景
F@UK:須山さんは、ワーキングホリデー(YMS)で2年間イングランドに滞在されていてUEFA Bライセンス取得済みと聞いています。住んでいるロンドンからは距離があるリヴァプールでのProzone分析コースをどのように知ったのですか?
S: ワーホリでイングランドに滞在しているあいだ、ヨーロッパ内で様々な分野の人とコンタクトを取り模索していたところ、リヴァプール大学で開催されているコースを分析会社の知り合いから話を聞いて、コース受講をきめました。
分析会社であるProzoneが主催している分析コース
分析ソフトを使った画像(4年前のアジア杯決勝、日本vsオーストラリア分析)
F@UK:分析会社であるProzoneが主催している分析コースということですが、いったい中身はどのようなものでしたか?
S:イギリスのリヴァプールにあるジョンムーア大学で開催されている分析コースを3つすべて取得しました。
このコースは分析会社のProzoneが主宰で、3段階にレベルが分けられています。
Level1:1試合におけるテクニカルな分析について
Level2:大会におけるフィジカル中心の分析について
Level3: チームコンセプトとスカウティングの分析、モチベーションビデオ作成について
コースの流れとしては、プロゾーン会社内の分析スペシャリストの方が、プロゾーンの大まかな仕組みや現代の分析の流れ、チームの紹介、分析がいま世界的にはどうのように動きになっているかをプレゼンしてくれました。
そして次に個々のパソコンを使いながら、プロゾーンプロダクトの分析ソフトの使い方、次はどのように数字をみていくという感じです。
ありとあらゆるデータが記憶されている
上のデータは長友選手とオーストラリアのカーニー選手の比較データ
S:映像とのリンク、アニメーション、数値、グラフ、ありとあらゆるデータがプロゾーンプロダクトには記録されており、驚いた事に世界中のリーグのデータ記録があり、もちろん日本のJリーグのものも含まれていました。
分析する上で大事にしなければいけないこと
F@UK:コースを受講するなかで、なにが大事であると考えましたか?
S:チームで分析をする上で、1番最初にする仕事は監督とのコミュニケーションだと思います。
まずチームがどのような哲学を持ち、監督がどのようなコンセプトでチーム作りをしているのかを理解する事が大切になってきます。
その上でどのようなデータを監督が必要としているのか話し合い、大量のデータから必要な部分を抜き取りまとめて行く作業がはじまります。
ソフト自体は、アーセナルやFAなどをはじめとして多くのクラブが使用しており、エヴァートンの監督しているマルティネス氏もProzoneのデータをどのように使っているかYoutubeで説明している。
EURO 2012 スペイン対イタリアの決勝戦を分析
スペインとイタリアのタッチ数とボール保持平均秒数
F@UK: 事前にプロゾーンで作成されたプレゼン資料を見せてもらったのですが、講義のなかでは、どのような試合にフォーカスをあてて、何を分析するのでしょうか?
S:2012ユーロ決勝スペイン対イタリア決勝を分析したのですが、なかなか興味深い結果を見つけました。
(上の表にある通り)スペインはボールタッチ数がイタリアに比べて圧倒的に多いのです。ボールタッチ数は多いので、それに伴って攻撃のテンポ(1人あたりのボールをもっている長さ)も緩むと予測していたのですが、結果はチームとしてのテンポは0,46秒スペインのほうが速かったのです。
スペインの数字を見て分かることは、「ただ闇雲にボールをたくさん触るのではなく、最初のボールコントロールから次へのアクションがスムーズで、予測された場所へ上手くボールを運べている」ことがわかると思います。
もし自分のチームが、スペインのような相手と対戦するときはどのようなディフェンスをするべきか、なにを練習で大切すべきかが見えてきます。
自分のチームに戻ったときにプロダクトは使えないが(かなり高額なので・・・)試合の観察眼や選手の観るべきポイントが増え、より深く選手やチームの動きを観られるようになったとおもいます。
コースでの実技内容は?
F@UK:最後に試験のようなものがあるのでしょうか?
厳正なテストはないのですが、データを用いながら、ある特定のチームを分析して資料を作って行くことが求められます。
個人ごとにあるチームのデータ収集、プレゼンテーションの資料を作り、コースの最後に20分弱のプレゼンテーションをします。ちなみに、ぼくはニューカッスル担当でした。
そこでしっかりとした内容が出来ていれば、講師の方からフィードバックをもらい、無事に資格を取得という形になります。
分析するうえで陥ってはいけないこと
F@UK:今回のコースを終えてみて、新しい発見はありましたか?分析について、どのようなことを考えましたか?
分析とは手段であって目的ではないなと考えています。
ぼくも含めた日本人は、分析という行為自体が好きなところがありますが、それをする事に満足してしまい、分析は試合に勝つための一つの手段であり絶対的なものではないという概念を忘れてはだめだとおもいます。
そうなると失敗への階段を上ってしまう。画一的な考え方にならず、フレキシブルに物事を捉え、一つの手段として捉え分析を行って行く事が重要です。
ゲーム分析はすべきか?といったら、確実に分析はしていたほうがいいとおもっています。その捉え方さえ間違えなければ、分析は勝利への武器になるはずだと思っています。
F@UK: 他には、どんな受講者の方がいましたか?
コースは30人くらい受講していました。サッカーを深いところまで追求したいという積極的な人達が多かったです。(UEFA Bコースを受講している人たちと同じくらいのレベルのサッカー観をもっていました。)
すでにプロチームで活躍している分析官も中にはいましたし、両隣はポルトガルのポルトで分析、ウェストハムで働いている方でありました。
今後への活かしかたとは?
須山氏はUEFA B のライセンスをイングランドで取得している
F@UK:資格が今後どうように活かされていくとおもいますか?
もちろんどこかのチームで、分析官(アナリスト)として働く時にも、プロダクトの使用方法やデータの見方、ビデオ作成など様々な面で効果的に働いてくれるとおもいます。
そして、これから大事になってくる事は、この経験をどのように現場で落とし込んで行く事であると思っています。
インタビュイー: 須山ヒロト氏
UEFA B ライセンス取得、現在はドイツでプロコーチを目指す
了
本マガジンFootball@UKは、イギリスサッカー留学(選手、コーチ資格、語学留学、大学進学)の現地サポートをロンドンより行っています。
Webマガジンや留学に関するお問い合わせなどは、下記リンクよりお問い合わせくださいませ!
リンクはこちら
▼「Football@UK」は1人でも多くの方にイギリスでのサッカー留学体験の様子を伝えるためにブログランキングに参加してます。よろしければ、バナーをクリックして応援お願いします。